少年は世界見る
     
〜ゼーヴルム・D・ラグーンの「つくってみよう、ぼくらの世界地図」〜

 


 ゼーヴルム・D・ラグーンだ。

 本日は各大陸の地理や民俗・情勢についての解説を任じられた。ただし他の面々と同じように楽しく教えるというのは私の性格上難しく、堅苦しい語り口になるやも知れんがそこのところは勘弁願おう。なるべくかいつまんで説明するつもりだがこんな事は初めてでな。いろいろ不備があると思うが質問は最後に受け付ける。

 

  <大陸俯瞰図>地大神殿編

 


 まずは上の地図を見てもらおう。ずいぶん古くて重い骨董品のような地図だが、実はこれが現在世界で一番精巧な世界地図だ。およそ七百年前のものだな。今の人間が作ったものより、古人が作ったものの方が優れているというのもいささか情けない話だが仕方あるまい。
 この世界は大きく分けてノルズリ大陸、ヴェストリ大陸、アウストリ大陸、スズリ大陸、ギュミル諸島の五大陸に分けることができる。これからこの地図を見ながら各大陸の説明をしていきたいと思う。


 <ノルズリ(北の)大陸>

 最北、この地図で言うならば上部に位置するのが、世界最大の陸地面積を誇るノルズリ大陸だ。地母神アデュレリアを祀り、地大神殿と始まりの神殿を有している。五大陸の中では生活水準が高く最も豊かな大陸のひとつだ。長い歴史と伝統を持つ王国が多数あり、現在最も勢力の強い大陸でもある。王立の図書館や学び舎が多く、知的水準が高いのも特徴だ。特に「北の学院」という異名を持つ神殿の学び舎サチェス神学院は神学のほか、医学や経済学など様々な分野においても実績を誇っており各大陸から留学生も集まる定評ある学校だ。
 この大陸は領土は広いが土地が痩せており、また冬の寒さが厳しいため穀物の育ちが悪い。そのためノルズリ大陸にあるほとんどの国家が他大陸に植民地を持っている。他国を侵略したり、紛争に口出しをしているためあまり評判はよくないな。
 この地に古くから住む人間は「地の民」と呼ばれており、外見の特徴としては背丈が低く目や髪の色が濃いものが多い。


 <アウストリ(東の)大陸>

 ノルズリ大陸と北東部で繋がっている大陸がある。東側、地図で言うと右側にあるこの大陸がアウストリ大陸だ。樹神ユークレースを信仰しており、樹大神殿がある。広大な森林と世界最大規模の穀倉地帯を持ち、世界で供されている穀物の実に五割がこの大陸原産だ。元は農業国が多かったが、最近では商業都市が増えてきている。沿岸地域では貿易も取り行い文化の最先端となっている。
 先にも述べたが、この大陸のおよそ半分を深い森が占めている。沿岸地域ではだいぶ文明化も進んできているが、内陸ではいまだ古い文化因習などが残っているようだ。また、こうした森には獣人やら妖精族などといった人外の種族も多く棲息している。いまではこういった生き物達はだいぶ姿を消しているので珍しいことだ。ただしその森も近年はだいぶ伐採が進んでいる。気候が温暖で最も暮らしやすい大陸と言われている。
 この地に昔から住んでいる者は「森の民」と呼ばれ、特徴は長い手足と尖った耳。これは他種族との混血が繰り返されたからではないかといわれている。


 <ヴェストリ(西の)大陸>

 アウストリ大陸の向かい側、地図の左側に当たる西に位置しているのがヴェストリ大陸だ。実はこの大陸については分かっていない事の方が多い。近年まで一般人はこの大陸に踏み入ることを規制されていたためだ。今ではだいぶ交流も進んでいるが、それでも他大陸の人間はあまり歓迎されない傾向にある。空神セレスティンを主神とし、空大神殿があることだけは少なくとも確かなことだ。
 聞いた話によれば、この大陸は高山地帯が大半を占めており、また空気が乾燥して雨が少ないために田畑を作るには土壌が適さないらしい。畑作よりも、牧畜や狩猟が盛んのようだ。またこの大陸では緻密で美しい工芸品が作られており、近年ではそれの輸出が主な産業のひとつとなっている。美的センスについては五大陸で随一だろう。
 この地に住むものは「空の民」と呼ばれ、線が細く色素が薄い人間が多い。また男女ともに顔の造作が美しい者が多いのも特徴だ。


 <スズリ(南の)大陸>

 地図の南端、アウストリ大陸寄りに位置しているのが火大神殿のあるスズリ大陸だ。大陸のほとんどを砂漠地帯が占め、そこには火神イグニアスを神として崇める「火の民」(別名・砂漠の民)が住んでいる。彼らは全身に刺青を入れるなど独自の文化を形成しており、自らに架した厳しい戒律を遵守しながら生活している。
 気候が厳しく、人が生きるのには楽ではない環境だが、その分鉱脈や燃料などの地下資源が豊富である。ただしそれを主に活用しているのはこの地に多くの植民地を持つノルズリ大陸の国々で、先住民たる火の民は主に牧畜などを行い生活をしている。
 火の民の特徴はやはり色黒の肌に施した全身の刺青であり、琥珀色の瞳もまた他大陸の人間にはない特徴である。


 <ギュミル諸島>

 南西、ヴェストリ大陸とスズリ大陸に挟まれた二つの島とそれを取り囲むように浮かぶ小さな島々。これが私の出身地であるギュミル諸島だ。名前の通りここは島であり大陸ではないのだが、便宜上、五大陸のひとつとして数えられている。ここの中心を担っているのが諸島の中央に位置する二つの島なのだが、北東にある島をノート島、南西にあるダグ島という。かつてはこの二島が熾烈な争いを繰り広げていたこともあるが現在はそれなりに友好な関係を築いている。
 この二つの島はどちらも似たような熱帯気候にあるが、性格がまるきり違う。かたや宗教的支配者でもある王による王権国家、かたや軍が国を支配する軍事国家。面白いことにどちらも海神バロークを信仰している。ちなみに海大神殿があるのは南西のダグ島の方だ。島民は主に漁業や貿易によって生計をたてているが、最近では様々は変化が生じてきている。
 ギュミル諸島に古くから暮らすものは「海の民」と呼ばれている。そのほとんどがよく日に焼けた褐色の肌と黒髪の持ち主で、背が高く体格もがっしりとしている。


 <イ・ブラゼル(至福の島)>

 ここは大陸ではないのだが、一応付け加えておこう。五大陸の中心にある小さな島。これがイ・ブラゼル、別名を至福の島という。この島は神殿の名のもとに立ち入りが禁止されており、五大陸のどの船であろうとその海域に近寄ることすらできない。完全な聖域だ。この島は誰も住んでいない無人島だが、唯一ここでだけデヴァイン・ブレスあるいはエターナル・グローリーなどと呼ばれる石が採れる。この石は市場に出回れば天井しらずの値がつくといわれている幻の石だが、その採掘も流通も神殿がすべて管理しているらしい。

 


 以上で、各大陸に関する説明は終了と言うことになる。だが、これは各大陸での大まかな特徴を述べただけにすぎず、同じ大陸内でも地域、国家によっても異なる部分が多数存在するのはまあ、当然のことと言えるだろう。それらのことについてのフォローは機会を得ておいおいしていくつもりだ。
 なお、本日説明した内容について質問がある者もいるだろうが、申し訳ない。今日はもはやそれに答える時間は足りないようだ。なのでどうしても聞きたい場合はこちらに質問を送って貰いたい。誠意ある回答を心がけよう。
 では清聴感謝する。