私がここ近年の若手ミステリー作家の中で、これは天才だ! と絶賛しているのがこの方、伊坂幸太郎氏であります。 伊坂氏と言えば、「重力ピエロ」、「チルドレン」といった作品が直木賞候補に選ばれた他、さまざまな文学賞を受賞しているという才気あふるる作家さんですが、その素晴らしさはたぶん作品を一冊も読めばすぐに分かることと思います。 この方の作品は語り口が洒脱で文章それ自体も面白いと言うのに、さらにとても緻密な構成の上に書き上げられていたりします。蜘蛛の糸の如く縦横無尽に張り巡らされた複線の嵐に翻弄され、まるでお釈迦様の手の上で遊ばれる孫悟空のように我々読者は最後には膝を叩いて、やられた! と喝采の声を上げたくなるのです。 その特性が一番良く分かるのが、それぞれ五つのストーリーが錯綜する、まるで箱根細工のような物語「ラッシュライフ」でしょう。これもまた、最後にすべての真相が明らかになった時の驚きと言ったら、ホント良い意味で悔しくて悔しくてたまりませんでした。読み終わった次の瞬間には、もう一度初めから読み直したくなる誘惑に駆られます。
しかし今回、この伊坂氏の本を紹介するに当たって私が選ぶのは、彼の初期作品である「陽気なギャングが地球を回す」と「オーデュボンの祈り」なのです。これは私の大のお気に入りの話だったりします。この二作は伊坂氏の作品の中ではライトノベルズ的な要素が強く、それゆえファンタジー畑の私のつぼにはまったのかも知れません。
「陽気なギャングが地球を回す」は伊坂氏が最初に獲得したサントリーミステリー大賞の佳作に入選した作品、「悪党たちが目にしみる」の関連作品ですが、これは他人の嘘が判る男、精巧な体内時計を持つ女、演説の達人、スリの名人といったバラエティーに富む四人組の銀行強盗が活躍するクライム・コメディです。
それから「オーデュボンの祈り」。この本は伊坂氏のデビュー作でもありますが、彼の作品中でも一風変わった物語だと思います。
登場人物といえば、実はこの伊坂氏の作品には複数の話にまたがって登場するキャラクターが何人かいます。また起きた事件なども微妙にリンクしており、それもまた読者には大変嬉しかったりするのです。 最近面白い本にめぐり合っていない人、あっと言わせてもらいたい人はぜひともこれらの作品を読んでみてはいかがでしょうか。きっと満足できるはずだと思いますよ。 (2004/11/19) (この紹介文は楠 瑞稀の独断と偏見により制作されております。) |