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京極 夏彦


 論理的妖怪作家として知られ、すでにしてその地位を不動のものとしている京極夏彦氏の紹介にいきたいと思います。

 まあ妖怪作家といっても別に京極氏自身が妖怪と言う訳ではなく(←失礼)、妖怪をモチーフにした作品を多く世に出している作家先生とのことですのでけしてお間違いのなきように(爆)。
 「ゲゲゲの鬼太郎」の作者である水木しげる氏と交友を持ち、手がける作品も「豆腐小僧双六道中」や「妖怪シリーズ」「京極堂シリーズ」などと題される一連の作品群などなど、妖怪を題材とした小説ばかり。これはなかなか出来ることではないでしょう。まさしく妖怪作家といったところです。

 京極氏と言えばまた難解な文章をとんでもなく分厚い本で出す作家としても名が知られているのですが、もしかするとその所為で京極氏の作品を読むのを躊躇っている人もいるかも知れません。
 まあたしかに「姑獲鳥の夏」を始めとする「京極堂シリーズ」などは確かにとんでもなく分厚く、私なんぞも(特に文庫版の「魍魎の匣」なんかは)これは本というよりは立方体だなあ(苦笑)としみじみ思ったものです。
 絶対電車の中では読めないし本屋で立ち読みなどしようものならしばらく腕が使い物にならなくなるな(笑)、と。

 しかしこのような「京極堂シリーズ」に限って言っても、けして堅苦しい話と言う訳ではありません。なによりも妖怪をモチーフとしておりながら、これは理路整然としたミステリーでもあるのです。
 古本屋・京極堂の主人であり憑き物落としの陰陽師である中禅寺秋彦は事件を妖怪に見立てそれを払うことで事件を解決へと導きます。彼の謎解きと思考回路には思わず膝を叩き、そして時にははっと息を呑まされることでしょう。実際には妖怪は登場しないのに、なぜかそこでは幻想と現実が入り混じり読者を絢爛たる夢幻の闇へと引き込むのです。

 と、まあ似合わぬ詩的な表現は置いとくとしても(笑)、この作品の素晴らしいところは個性的かつ魅力に溢れたキャラクターと深みと意外性に富んだストーリー構成であります。
 ちなみに私は(もはや完全な私事ではありますが)、このシリーズに出てくる名(迷?)探偵・榎木津礼二郎閣下の大ファンです。眉目秀麗、頭脳明晰、運動神経抜群でありながら迷惑千万な自称≪神≫。その破天荒な性格にすっかり惚れ尽くしてしまった私だったりいたします(笑)。京極氏の作品は堅苦しそうだなと思っている人はきっと彼によってその考えを破壊しつくされること間違いなしでしょう(爆)。
 お勧めはこの榎木津礼二郎閣下が大活躍する探偵小説「百鬼徒然袋・雨」及び「風」です。これはかなりコミカルなストーリーなのでだいぶ読みやすいと思います。

 さて、こんなに長々と語っといてあれなのですが実はこのたび私が最も紹介したいのは京極氏の手がけるもう一つの「妖怪モノ」、「巷説百物語」シリーズなのであります。これは現在「続巷説百物語」「後巷説百物語」の三部構成になってまして、私は見たことは無いのですがどうやらアニメにもなっているようですね。

 舞台は江戸後期。蝋燭問屋の若旦那と正義の小悪党・小股潜りの又一たちの交流と事件解決を描いた時代妖怪小説です。また妖怪ですよ(笑)
 彼らは手練手管口八丁手八丁を使い、悪人は罠に嵌め善人には夢を見させ、本来なら解決不可能である事件をどうにか丸く収めます。そこで活躍するのが妖怪の存在なのですが、けしてこの小説には本物の妖怪は出てきません。彼らは妖怪という概念を事件解決に利用するのです。その点では先の述べた「京極堂シリーズ」と同様であると言ってしまってもいいでしょうね。しかし京極堂のほうが起こった事件を解決するのだとしたら、彼らはある意味事件を引き起こします。まあ、出てくる登場人物からしてそのほとんどが気味の良い小悪党たちばかりだから当然といっちゃあ当然なのですが。
 つまりこの「巷説百物語」は一種のクライム・ノベルスと言ってしまっていいでしょう。けれど彼らの本当の目的(の大半)は迷宮入りにされかけた事件難題を解決し、おおっぴらには裁けない悪党を裁くこと。すべての謎が解明かされた時の爽快感といったら私なんぞではとてもじゃないですけど文章にはできません(笑)。

 このシリーズは短編集になっており、長い話を読むのは大変だという人にはうってつけです。しかもそれでありながら読了後には、まるで長い長い話を読み終わったような充実感が得られます。語り口もストーリーも京極氏の作品の中ではだいぶ読みやすいほうだと思いますので、未読の方で興味をお持ちの方がいらっしゃいましたらぜひとも手に取ってみてはいかがでしょうか。

 他にも京極氏の作品には、すでに映画化した「笑う伊右衛門」や近未来SF「ルー・ガルー」、重量級コメディー「どすこい(安)」などがあります。また2005年夏には「姑獲鳥の夏」が映画化するなどこの先もまだまだ目が放せないのですよ。

(2005/3/10)

(この紹介文は楠 瑞稀の独断と偏見により制作されております。)