推薦図書目録 オフライン

有川 浩


 あ〜も〜、この馬鹿っぷるめが!!

 いきなり何のことだかという感じなのですが、第一声をこれで始めさせて頂きたいと思います。いや、つい今さっきシリーズのひとつを読み終えたものでして。

 こんな感じでスタートしました久々の紹介は、有川浩氏の作品です。
 コミカルにして明快な物語でありながら単なるライトノベルという枠を超えて、登場人物の心の機微を大胆に描き、また現実の社会の中に存在する様々な問題をこれまた分かりやすく明瞭に取り上げているのが素晴らしい、私の中では非常に高い評価の作者様です。

 私が有川先生の著書の中で初めて読んだのは『空の中』というSF要素の強い物語でした。これは少年が未知の生物と遭遇し、交流を深めつつ、世間を騒がす大事件に巻き込まれていくという物語です。
 しかしこの少年と未確認生物とのやりとりがもう、こう……非常に愛おしくて胸に迫るものがあります。勝手に先走って悲劇的な展開を予想し、涙してしまったこともご愛嬌。若いがゆえの感情が実に鮮烈で、ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚が実に心地の良い作品でした。
 しかもこのお話は、少年と未確認生物のやり取りともう一筋、大事件の方とメインに関わっている大人組の物語展開がありまして、こちらは見事な頭脳プレーに感心できる他、素直になれない戦闘機乗りと派遣調査員の微笑ましい恋愛模様にも胸躍らせられてしまいました。

 そしてその次に読んだのが『海の底』というスピルバーグ張りのパニック小説。突如横須賀湾に大挙して押し寄せてきた巨大海老と、そんな中潜水艦の中に取り残されてしまった若手潜水艦乗りと子供たちのお話です。
 海老の正体はなんなのか、どうやって事態を収拾するのか、そして何より如何に子供たちを救出するのか。単なる救助劇には収まらず、例えば密閉空間に押し込められた子供たちの間で起こるいざこざやしがらみによってうまく事を進められない自衛隊、警察ら外側の人々の葛藤などが上手く組み合わされて描かれています。
 また潜水艦の中に取り残された人間の中で唯一の女の子がぶっきらぼうな潜水艦乗りに向けた淡い恋心もまた非常に乙女心をくすぐられます。

 つまり何が言いたいのかというと、有川氏は非常に優れたストーリーテラーであると同時に、素晴らしい恋物語の書き手でもあるということなのです!
 『海の底』のキャラクター設定を一部継承しつつ描かれ、このたび遂に完結した『図書館戦争シリーズ』でもその手腕は発揮されています。

 『図書館戦争シリーズ』はパラレルワールド的設定の現代日本が舞台の作品です。公序良俗を乱す表現を取り締まるため武装し検閲を繰り返すメディア良化委員会と、「狩られる本」を守るため武器を持って立ち向かう図書館隊の物語――と、あらすじを書いてしまうとかなり荒唐無稽な話のように思われてしまいますが、背後関係や設定がしっかりしているので私はほとんど違和感を覚えませんでした。
 物語の主題である検閲はもちろんのこと、差別用語の問題や、少年犯罪に関する問題など本を愛する人間には見過ごせない様々な事件がストーリーを通して他ならぬ読者に語り掛けてきます。
 そして何よりも楽しいのは、登場人物の誰もが実に豪快で灰汁が強く、魅力的だということ。渋いオジサマ、豪快な隊長、頭脳明晰な美女、優秀な同僚、と主人公の周りの人間だけに限っても実に豪華絢爛。彼らサイドキャラクターの物語も随分奥が深く、彼らと主人公が様々な事件に遭遇し、葛藤し、悩み、傷付き、それをえいやっと乗り越えていく様は実に気持ちが良いです。
 また170cm級戦闘職種にしてヒロインの郁とその指導教官たる堂上の不器用な恋愛模様も見ものです。最初は反発して憎まれ口を叩き喧嘩を吹っかけるヒロインですが、物語の進行と共にじりじりと展開していく間柄はもうこちらの方がやきもきさせられます。おかしくって、いじましくって、そんな一風変わった恋物語が楽しめます。

 楽しくって面白くって奥が深くって趣き深い。
 しかし何より、わははと笑ってすかっとできる。

 そうした一種の清涼感に溢れた感動が、これら有川氏の作品の醍醐味であるのです。

(2007/11/11)

(この紹介文は楠 瑞稀の独断と偏見により制作されております。)