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空音の日常


 『天はニ物を与えない』という言葉がありますが、ようするにそれは神様は多くの才能を一人の人には与えないというものです。 でも、神様に与えられた才能が果たして自分の役に立つかというと必ずしもそうとは限らない。世の中上手くはいかないもので、特に他から与えられる才能というのは自分では選べないもんです。

 今回私がお勧めしたい話は、「現実的、非現実的を問わずあらゆる災厄に巻き込まれる」というとんでもない才能を与えられてしまった少女のお話です。

 主人公の名前は坂下空音。顔立ちは平均的かやや上くらいだけれども、成績優秀でとっても料理が上手な女子高生です。
 平凡な生活というささやか過ぎる幸せを望む彼女の元には、しかしこの才能のおかげで吸血鬼やら銀行強盗やら悪魔やらとんでもない輩がわんさか集まってきてしまうのですよ。
 まあ、ようするに彼女の送るかなり波乱万丈な日々をつづったのがこの物語なんですね。タイトルにはずばり『日常』と記されていますが。

 むしろ『日常』的に、さまざまな事件に関わらなきゃならない彼女になんとも同情せずにはいられませんよ。なにせ彼女の巻き込まれる事件というのは、ちょっとほのぼのな人情路線から命の危険に関わる一大スペクタクルまで(むしろ後者の方がけっこう多め)盛りだくさん。
 でもこれらの事件を主人公がいかに解決していくのかというのが、この作品の見所でもあるでしょう。私なんかはもう何だかかなりはらはらしてしまって読み始めると一時も目が離せないような状況です。

  そんな命がいくつ有って足りないような目に合っている彼女なのですが、やっかいな才能をフォローするためなのか何なのか、ほかにもう一つの能力(というか体質)を持っています。
 それは「あらゆる意思を持つものとの意思疎通能力」
 なぜ世の中にリーディングの授業なるものが存在しているのかいまいち腑に落ちない私なんかにはとてもうらやましい体質なのですが、でもこの能力が彼女に襲い掛かる事件を解決する武器になるのかというとこれまた微妙。むしろ若干厄介ごとを増やしているような気がしないでもありません。
 つまり彼女にとって最大の武器となるのは、天から与えられた才能よりも知恵と勇気と人脈なのですよ!

  それを証明するかのように、彼女のもとにはトラブルだけでなく頼りになる(?)友人知人も集まります。
  たとえば彼女の保護者代わりでもある鏡の付喪神、鈴華さん。和服の似合うテレビ好きなお茶目なお姉さんです。
  そして空音の同級生かつ裏でフィクサー(人から物から何でも調達する稼業)を営む緑丘和真氏。 当人たちは依頼人と請負人という関係だと言い張っておりますが、私は妙に息のぴったり合う彼らの間柄が、この先の最も注目すべきポイントだと思っていたりします。

 このように彼女は頼りがいのある人や人外(笑)の手を借り知恵を借り、あるいは独力で自らに降りかかる様々な災難を回避するのですが、同時に彼女はなるべく普通の人とは関わらないように極力気を使っています。それはどうやら彼女の過去に大きく関係しているようなのですが…。今はまだかすかに匂わせているだけなのですが、いったい彼女に何があったのかも非常に気になるところです。

  次々起こる日常・非日常な事件、そして目を釘付けにされる息もつかせぬ展開がとても魅力的な『空音の日常』ですが、もうひとつ見所を挙げるとすればそれはコアな小ネタの数々でしょう。各章のタイトルからしてそうですが、作品の中の所々に仕掛けられたゲームやアニメ、ドラマ、小説あれやこれやを元にしたネタは分かる人にとっては思わずにやりとさせられます。
  また主人公が文学少女というだけあって、さりげなく出てくる実在の小説タイトルが登場人物に親近感を与える要因となっているのです。

  シリアスにコメディに謎にお遊びにと様々な魅力が満載の『空音の日常』、どうぞ一度ご覧あれ!


  掲載 /ライトノベルや漫画紹介&自作小説サイト
           「Cruel Books」

                    管理人 /kaieiさん

<現在「空音の日常」の他、異世界アクションファンタジー「世界線−world line-」も連載中です。またライトのベルや漫画の紹介なども手広くなさっています。>