第一章 4、「道化師の招待状」(1)

 

「とりあえず、また街に出て探すしかないかな」
 あれほど目立つ人間だ。どこに移動したにせよまるきり人目につかないということはないだろう。あてもないままジェムたち三人はひとまず街の中心へと足を向けることにした。
「だけどシェシュバツァルさんを釈放させてくれた人って一体どんな人なんだろう……」
 先ほどから道すがらにずっと考えているのだが、まったく想像もつかない。ジェムは首をかしげて呟いた。
「ん? 俺はなんとなく予想がつくよ」
 さらりと返された言葉に、ジェムはかなり驚いた。
「えっっ! どうして判るんですか!?」
「簡単なことだよ、リヴィングストーン君」
 シエロは小粋に肩をすくめる。
「多分、この街の有力者で警備隊のお偉いさんに顔が利く人間だ。思うにシェシュバツァル君の釈放は、正規の手続きを全部すっ飛ばして強行された。そうだろ?」
 茶目っ気たっぷりの視線を向けられ、兵士は憮然とした顔のままうなずく。
「それはそいつがお偉いさん方に直接便宜を図らせられる立場にあるか、鼻薬を嗅がす事ができる人間だってことだ。だから、シェシュバツァル……」
 ふとシエロが口を閉ざす。
「どうしたんですか?突然。何か気付かれたんですか」
「……いや」
 シエロは眉根に皺を寄せたままジェムに顔を向けた。
「なんかさ、いちいちシェシュバツァル君、シェシュバツァル君って律儀に言ってると舌噛みそうで怖いんだよな。もう、いっそバッツって呼ぶ事にしちゃおうか。つうか呼んじゃっていいよな」
「えっ。まぁ、はあ……」
 本人のいないところで決めるも何もないものだが、それで満足したのかシエロは晴れ晴れとした表情で話を言い切った。
「だから俺の予想では、バッツくんを連れて行った犯人はかなりの資産家、かつ警備隊の上層部の人間と仲が良い人間だね。ついでにかなり陰険な性格で友達がいないはずだ。これには根拠はないけど」
 ジェムは目をまん丸に開くと素直にぱちぱちと手をたたいた。
「すごいですね、シエロさん。ぼく、そこまで頭が回りませんでした」
「なぁに。この程度の推理、俺の頭脳を持ってすれば……」
「それで、どうやって探すんですか?」
「それはみんなで考えよう」
「……」
 沈黙が一同を包んだ。
「とりあえず、聞き込みから始めればどうだろう」
 それまで無言でジェム達の後についてきた兵士が呆れたように口をはさむ。しかしそれに唯一渋い顔で首を振ったのがシエロであった。
「そりゃさ、根気よく聞き込んでいけばそのうち手がかりは掴めるだろうけど、できればそれは最後の手段がいいなぁ」
「なぜだ?」
「だって面倒くさいよ」
「……人探しとは総じて手間と時間が掛かるものだと思うが」
 その意見にはジェムも諸手を上げての賛成だった。