第四章 4、悪徳の栄える島(3)

 


「で、フィオリさんたちはぼくを探すために……海賊船に乗り込んでここまで来てくれたんですか」
「そうよ」

 唖然とした表情を浮かべるジェムに、フィオリは得意満面にうなずいてみせる。
 だがジェムはためらいがちに視線を下げたまま、うまく言葉を返すことができなかった。

 自分を救うためにここまでしてくれたのは嬉しい。本当に嬉しいのだけれど――。

「ちょっとなに、なんか文句でもあるの?」
「い、いえ!」

 はっきりしないジェムにフィオリは眦を吊り上げる。ジェムはとっさに首を振ったが、肯定の言葉は思いもよらぬ方面から飛んできた。

「オレには、あるっ」

 ぎょっとした思いで振り返ると、ダリアが腕組をしてふんぞり返っていた。

「そこまで言われてもまだ我を通そうなんて、面の皮が厚いと言うか恥知らずというか。とんでもない娘っ子だな」
「ちょっとっ、いきなり口出してきて失礼なこと言わないでくれる!?」

 知らないとは時に何ものにも勝る勇気を人に与えるもの――いや、この場合は蛮勇と言った方が正確か。
 怖いもの知らずとはまさにこの事で、フィオリはむっとして海賊船の船長であるダリアに文句を言う。

 フィオリの語ったことは主にジェムに対する説明だ。
 彼女が誰なのか、そして話に出てきたスティグマやバッツは何者なのかということは所々ジェムが補足をしていた。しかしそれでも元より巡礼使節に関わりないダリアや他の海賊らには理解できないことも多かっただろう。

 だからこそ門外漢である彼をきっと睨みつけるが、ダリアはふふんと鼻を鳴らして居丈高にフィオリを睥睨した。

「ばぁか。無礼なガキには無礼な事を言ってもいいんだよ。そう『ホーリツ』で決まってんだ」

 そんな法律、これまで見たことも聞いたこと無いがギュミル諸島では当たり前の話なのだろうか。そう考えていると、おもむろにやってきたエジルがぽんとジェムの肩を叩いた。

「いやいや、さすがにそんな無茶な決まりなんかありゃしませんぜぃ。ダグ島にもノート島にも。オカシラが勝手に言ってるだけだから」
「はぁ、やっぱり」

 脱力したように肩を落とすエジルと、さもありなんとうなずくジェム。
 ダリアは咽喉を反らして、よりふてぶてしい態度でフィオリを見下ろした。

「お前が自分の身の安全よりもジェムの方を心配すると言うのはまぁ、いいだろう。許してやる。だがその所為で心配してくれる親同然の奴を蔑ろにするのは頂けない」
「ダリアに言えたことでもないですけどね」

 背後でぼそりとグレーンが呟き、ダリアは思わずぐっと息を飲む。が、それでもめげずに言葉を続ける。

「海の民は忠孝に篤く、受けた恩はけして忘れない。むしろそれを蔑ろにする奴は、場の和を乱すと軽蔑される。いいか、オレの船に乗りたきゃそこの所をしっかり覚えておくんだな」
「だ、誰もあんたの船に乗りたいなんていってないじゃない」

 フィオリはむっとして言い返すが、ダリアはふふんと鼻で笑った。

「じゃあ船頭のいないこの船に乗って漂流し続けるか?」

 まったくの正論に返す言葉もなく、ぎりりとフィオリは歯軋りしダリアを睨みつける。喧嘩上等のダリアも負けじとフィオリを睨み返した。

「まぁまぁ、落ち着きなさい。双方とも」

 苦笑しながら間に入ったのはグレーンだった。彼は穏やかに二人をたしなめる。

「ようするにね、お嬢さん。貴女は仲間の元に戻ったら、きちんとお父さんに謝りなさい。それがこのイア・ラ・ロドに乗るために、我々がつける条件と理解してください。そしてダリアも、こんな小さな、しかも女の子相手に大人気ないですよ」

 完膚なきまでに大人の態度でお叱りを受けて、フィオリとダリアはしゅんと小さくなる。そんなところは似たもの同士である。
 そしてグレーンは気配を消しているかのように静かに黙りこくる、もう一人の仲間にも如才なく声をかけた。

「それで――貴方の方は大丈夫ですか?」
「……ああ、ごめん。俺いま程よく絶不調。しばらく素敵な対応は出来かねますのでご了承ください」

 言葉だけ聞いているとまったく問題は無いように思えるが、ジェムがふと視線を向けた先では、シエロがだいぶ具合が悪そうに青ざめた顔で口元を覆っていた。

「シ、シエロさんっ。大丈夫ですか!?」

 ジェムはぎょっとしてシエロの具合を心配する。これほどまでに体調の悪そうなシエロを見ることは滅多にない。遡ればたぶん、猫に懐かれて寝込んだとき以来だ。

「船室に閉じ込められてからずっとこうなの。平気だって言ってたけど……」
「いやぁ、平気平気。風に当たっていれば治るから」

 言葉だけは平然と、シエロは蒼白い顔のままぱたぱたと手を振って見せる。

「ああ、どうやら随分と気の廻りが悪くなっているようだな」

 ちらりとダリアがシエロの顔を覗き込んで言った。
 平然と呟かれた言葉は、しかしジェムにとってはまるで馴染みのないものだ。ジェムはおずおずとダリアに尋ねた。

「あの……気の廻りが悪いって、どういうことですか」
「貧血みたいなもんだな。だってこいつ、空の民だろ。『空』の気質が強い奴は、体内の風素が足りなくなるとこうなる。ほら、お前らだってよく『地の気』が足りないとか言うだろう」
「地の気じゃなくて血の気ですよ」

 グレーンが律儀に訂正するが、別に意味的には違わないだろうとダリアは大雑把な返事を返した。

「たぶん空気のこもった船室に長くいた所為で、一時的に体内の気の廻りが悪くなったんだろう。自然の風に当たっていればすぐに治る。――それよりも、オレはお前らがなんでこの船に乗っていたかの方が気になるな。だいたいこの船の有様は何なんだ」

 ダリアはふいに厳しい眼差しでフィオリを見る。その目はこれまで丁々発止のやり取りをしていた奔放な青年ではなく、幾度もの荒事を乗り越えた海賊船の長の目だった。

「それは……確かに、ぼくも気になります。フィオリさん、どうしてあなたとシエロさんは、船室に閉じ込められてなんかいたんですか」

 彼女らに手を貸した提督は信頼の置ける海賊船を紹介したはずだ。提督か、あるいは海賊たちにもしや彼らは騙されてしまったのだろうか。
 そう思ったジェムだったが、フィオリは首を振った。

「とりあえず、まず最初に勘違いをひとつ訂正しておくわね。いまここにいる船は、あたしたちが最初に乗り込んだ船じゃないの」

 彼女は言った。

「あたしたちの乗っていた船は、この海賊船に襲われたのよ」


 

 

 マレー提督に紹介され、彼女たちが最初に乗せて貰っていた海賊船ではフィオリらはまさに下にも置かない扱いを受けていた。
 部屋は広く豪華な船長室を明け渡され、食べ物も飲み水も上等なものを優先して与えられた。王侯貴族を乗せたとしても(特に彼ら海賊にしてみればなおさら)これほどの扱いはしなかったことだろう。

 その理由はひとえにシエロの存在にあった。
 なにしろシエロはひと目でヴェストリ大陸出身の『空の民』だと分かる。例え風霊使いだという確証を船員たちが持たないまでも、なるべく彼の機嫌を損ねないようにと何かと気をかけられていたのだ。

 このように風霊魔法の使い手や風霊使い(風喚び)が、ギュミル諸島の船乗りたちの中で敬意を受けるにはいくつかの理由がある。
 例えば風が帆船の運行に不可欠な原動力だからいざと言うときにはその能力を当てにしている、と言う打算的な考えもないわけでは無いだろう。しかしそれ以上に大きな理由もあった。

 それは今もまだギュミル諸島でまことしやかに語り継がれている伝説。『風霊に好かれた者を害すれば、その船は風霊から呪われる』という言い伝えである。

 暴風雨に襲われるか、凪に見舞われるか。どちらにしてももしそんなことが実際に起きれば、海に漂う帆船などひとたまりもないだろう。
 ようするに、風霊使いを粗末にすると祟られるという伝承こそが、船乗りたちの行動の最もたる理由なのであった。

 だがそれも、いまや大真面目に守っているのは信心深い『海の民』に限るのかもしれない。現に船員の大半が精霊に対する関心の薄い、ノルズリ大陸出身で占められている私略船の船乗りたちにとっては、何の意味も持たなかったのだろう。
 聞けば彼女たちの乗った船は二隻の私略船に挟み撃ちにされ、降伏を迫られたらしい。
 

「あの時は大変だったわ。まさかこんな短い期間に二度も海賊に襲われるとは思わないじゃない」

 フィオリはしみじみと呟くが、それにダリアはむっと眉を顰める。

「海賊船じゃなくて私略船だ。このふたつはぜんぜん違うぞ」

 彼にとっては見過ごすことの出来ない違いのようだが、彼女は綺麗に無視する。そしてその時の事を思い返したのか、フィオリは忌々しげに吐き捨てた。

「あいつらは荷物を全部明け渡せはこれ以上酷い事はしないって言ったわ。船員たちは大人しくそれに従ったの」
「え、でもじゃあどうして」

 どうしてフィオリたちが私略船に乗り移る羽目になったのか。それに対するフィオリの答えは簡潔だった。

「あいつらは、あたしたちの事を商品だと思ったようなのよね」

 船乗りとは見るからに毛色の違うフィオリとシエロは、海賊船の中でも特に目立っていた。特に海賊船は女性厳禁だ。にも拘らず海賊船の中にいたフィオリたちを、私略船の船員たちはてっきり奴隷として売られる商品だと考えたのだ。

「あたしは本当に嫌だったけれど、シエロが抵抗しない方がいいって言ってね」

 フィオリはどこか恨みがましい目でシエロを見る。どうにか顔色が戻ってきたシエロは肩をすくめてその視線を受け流した。

「まぁ、それが賢明だな」

 ダリアがうんうんとうなずく。

「私略船の連中は生粋の海賊たちと違って残酷非道だ。下手に逆らえば問答無用で殺されていただろうな。まぁ、お前みたいな娘っこならむしろ――、」

 ダリアはそこで言葉を切ったが、値踏みするような視線に上から下まで舐めるように見られ、フィオリはぞっと背筋を粟立てて両腕を抱きしめた。ようするにまだ商品として扱われた方が身の安全は確保しやすかったという訳だ。

「で、そのあとは船室に閉じ込められてたからよく分からないわ。ただそのうちなんだか凄く揺れだしたり、逆にぴんと張り詰めた空気みたいに動かなくなったり、そんなのが交互に起きて」
「風霊の悪戯だな」

 うんうんとダリアがうなずく。ようするに空の民で精霊使いのシエロを閉じ込めたことで、私略船は風霊の嫌がらせを受けたということらしい。
 精霊と言うのは、どうやらジェムが思う以上に仲間意識が強いようだ。

「それが大体一週間くらい続いたかしら。最後には何だかどたばたと物を運んでいる音がしたと思ったら、あとはさっぱり物音ひとつしなくなったのよ」

 実際にはどういった経緯でそんなことになったのか、正確なことは定かではないが、船員たちはフィオリたちを船の一隻に置きざりにして逃げ出したらしい。

「つまるところ、そいつらは積荷だけを持って船を捨てたのか」

 呆れたようなダリアの言葉に、海賊たちはそれぞれ嫌悪の表情を浮かべている。
 船に命を預ける彼らだ。あっさりと船を見捨てた私略船の船員たちの行動は、とんでもない暴挙に感じられたのだろう。

「それは大体いつ頃のことですか」

 グレーンが何かを計るようにフィオリに訊ねる。

「閉じ込められてたんだもの。時間の感覚なんてさっぱりよ。……でも、そうね。あなたたちが来るまでに半日も経ってなかったと思うわよ」

 その言葉にジェムはほっと息をついた。

 もしも風霊のアイセがこの船を発見し、そしてダリアが向かわなければフィオリたちはずっと船室に閉じ込められたままで、そうなればきっと二人とも無事ではすまなかっただろう。
 ジェムはこの途方も無い幸運に感謝した。

「しかし船一隻捨てさせるほどの祟りをおこすとは、とんでもなく精霊に好かれてるんだなお前は」

 ダリアは呆気に取られたような目でシエロを見るが、シエロはどこか素っ気無い態度で首を振る。

「別にこの場合は、俺が居たとかそういうのは関係ないんじゃないの? 何せこの船は、精霊にとってかなり好ましくないものを積んでた訳だし」

 ジェムには何のことかさっぱりだったが、ダリアははっと顔色を変えて配下たちに確認する。

「そうだっ。お前ら、アレは見つかったのか!?」
「いんや。見つかりませんぜ、お頭。他の積荷は残っていてもあれだけは綺麗に消えておりやさぁ」
「くっそぉぉっ」

 それを聞いてダリアは口惜しそうに地団駄を踏んだ。

「あの、アレっていったい何のことなんですか?」

 ジェムは遠慮がちにダリアに問い掛ける。もともとこの船に向かったのだって、アイセから何かの存在を聞きつけたからだ。
 はたしてダリアの目的はいったいなんだったのか。

 《イア・ラ・ロド》の船長はジェムをちらりと見ると、忌々しげな顔でぼそりと呟いた。

「……封印石だ」
「封印石――?」

 ジェムは首を傾げる。口に出すのも汚らわしいと、それ以上の説明を拒むダリアに変わって解説を受け持ってくれたのは操舵手のグレーンだった。

「封印石とはご禁制の品のひとつで、文字通り封印――精霊を封じるための術に欠かせない石ですよ」
「精霊を閉じ込めてしまうんですか?」
「いいえ、違います。術を張ったその範囲いっさいに、精霊を入れなくさせるんです」

 それはむしろ結界のようだ。ジェムはそう思ったのだが、返された答えはより深刻だった。

「結界は精霊の放つ力を遮るだけですが、封印石は精霊の存在自体を遮ります。それが結果としてどれだけの災いを生じさせるかと申しますと……」
「大地は腐り、水は濁る。火は蔭り、植物は枯れ、大気は淀む。そこは人の住めない不毛の地へ変わるんだ」

 ダリアがそう吐き捨てる。ジェムはその言葉にぎょっと目を見開いた。

「精霊ってそんなに重要な存在なんですか!?」
「当然だろ。自然界の事象に精霊は欠かせないんだぞ」

 ダリアはあっさりとうなずいた。

 風が吹くこと、水が流れること、火が燃えること、草木が芽吹くこと。その全ては、この世に満ちる元素(エレメント)によって発現する。
 そうしてそんな反応を手助けしているのが、精霊であり精霊の使う精霊言語なのだ。

「ダリアの言い方はちょっと大げさですよ」

 グレーンは困ったように苦笑する。

「もちろん精霊の手を借りなければ不可能と言うわけではないです。ですが精霊がいなければその土地、その海域は確かに自然の力が弱くなる。――ですから我々は皆、目に見えない精霊の力によって生かされていると言ってしまってもいいのかも知れないですね」

 グレーンは苦笑しながらそう言う。しかしジェムはそれを聴きながらふと違う事を考えた。

 人間にとって生きる上で重要となるのは、目に見えるものよりも目に見えないものの方が多いのではないだろうか、と。
 それはなにも精霊に限ったことではないのではなく、それよりももっと根源的な部分で――。

 
「そんな危険なものを、この船は積んでたのね。だけどいったいどうして?」
「封印石は使いようによっては、これ以上ない武器になるからだ」

 不思議そうなフィオリの言葉にジェムははっと我に返った。ダリアはその疑問にあっさりと答える。

 例えば封印石を使えば精霊の加護を持たない者でも精霊使いと互角に勝負ができる。いや、精霊の助けを借りることに慣れきった人間は完全に無力化されるだろう。
 また島ひとつ封じればそこはやがて草一本生えない死の島となる。それは島を制圧する手間を省くということだ。

「だから、封印石は闇では高値で取引される」

 それはようするに、戦争の道具としても利用されているということなのだろう。

「それじゃあ、あなたはそんな危険なものを手に入れていったいどうしようというの?」
「捨てるんだよ」

 途端に警戒心も顕わな口調で問い掛けるフィオリに、しかしダリアは眉をひそめて心外そうに言った。

「あんなもの、手の届くところにあるから、掘り返されて持ち出されるんだ。だから人の手の届かない、深い海溝に沈める。大体オレが封印石の売買に手を出してみろよ。うちのアイセにどつかれるって」
「ああ、そうですよね」

 ジェムは思わずうなずき、苦笑した。
 ダリアにとっては禁制の品の闇取引で得られる報酬よりも、馴染みの精霊の機嫌のほうがずっと重要なのだ。

「アイセ……?」

 ふと、呟き声がする。

「まさか、精霊――?」

 視線を向けると、だいぶ顔色が戻っていたシエロがしかしひくりと顔を引きつらせていた。
 そうですよ、とジェムが不思議がりながらもうなずこうとしたその時、ジェムにとっては二度目となる烈風が、帆を激しく叩いた。

「ねぇ、ダリア。あの憎たらしい石は? ちゃんと捨ててくれた?」

 ばさりと翼が大気を打つ重い音がして、空から真っ白な大鷲がダリアの腕に舞い降りた。
 甘えるような柔らかい女性の声。それがこの優美な鳥がただの獣でないことを如実に示している。
 ダリアは困ったように肩をすくめた。

「すまねぇ、アイセ。しくじっちまったぜ」
「あら、あなたにしては珍しいわね。何か――、」

 あったのかしら、と訊ねながら視線を廻らせたアイセはしかしある一点を見たところでぴたりと言葉を途絶えさせた。そしてぎょっとしたように、全身の小羽を毛羽立たせて大声で叫ぶ。

「ど、どうしてあなたがこんなところに居るのっ。アーヴェ――、」
「いやぁ、ハジメマシテ綺麗なお嬢さん。とっても美しい翼だね。良かったら俺と一緒にお茶でもしない、それとも甘いものでも食べようか。だけど君を前にすればどんな甘いものでもきっと味なんかしないだろうね。君の存在自体がとても甘く薫っているのだから」

 シエロはまさに立て板に水のごとく、歯が浮くような台詞をとめどなく捲くし立てながら大慌てでアイセのくちばしを掴む。
 言葉を封じられたアイセはばさばさと翼を羽ばたかせて抵抗するが、シエロはそれすらも全身をがっちりと締め付けるように抱きかかえることで押さえ込む。

「ああ、なに? 君もまんざらでもないって? それは重畳。俺たちきっと気が合うんだね、運命ってこういう事を言うのかも」

 アイセを小脇に抱えたシエロは至極真剣な表情で、周囲を見回して言った。

「それじゃあ俺たち、これから将来に関わる大切な話をしなきゃならないから誰もついてきちゃ駄目だよ」

 そして唖然とする周囲を尻目に、シエロはアイセを捕まえたままそそくさとその場を離れ物陰に消えていく。

「……なんだったのかしら、あれ」
「なんなんでしょう……」

 あまりに唐突なことで訳がわからない。ジェムもフィオリもただただ呆然とするしかなかった。