綺麗な装丁の本を手にするとなんだかワクワクしてしまうように、見事なサイトデザインのネット小説に出会うとどんな素敵な物語なのだろうとドキドキしてしまいます。
もっとも、どれだけ見事な装丁やサイトデザインの作品であっても、中身がお粗末なものでしたらがっかりしてしまいますが、今回お勧めする作品は外見以上に中身もたいへん素晴らしい小説です!
今回、私がお勧めしたいのは児童書ファンタジー「リンのてがみ」です。
分類としては児童書ファンタジーとなっておりますが、秀逸な児童書よくあるように、この作品も子供から大人まで幅広く楽しめる作風であると思います。
この作品は一人の少年の旅と成長の物語です。
「リンのてがみ」は主人公のリン少年が一人遠くの星へ旅立つために乗ってきた列車の、最初の乗り換え駅であるエンジャーグル(最果ての駅)から始まります。
彼はその駅で様々な人種の「ヒト」を見かけることになります。
それは極彩色の羽を持つ鳥の「ヒト」であったり、思わず踏みつけてしまいそうになるほど小さな小人の「ヒト」、あるいは見上げるほどに大きな、または耳や尻尾の付いた多種多様な「ヒトビト」。
彼は、そんな不思議な(しかしその世界では当たり前の)ヒトビトに囲まれながら、目的の星へ向かう星間列車で旅に出ることになります。
リン少年の旅の理由は、最初、読者には明らかにはされておりおません。もしかすると、リン少年自身にもはっきりとは分かっていないのかもしれません。
しかし少しずつその片鱗が、リン少年や周囲の人々、そして展開していく物語の端々から見えていくようになります。
それは主人公の穏やかで純粋な人柄から想起するような、ほのぼのとした安穏たるものではなく、どこか不穏な空気を孕んだもののように思え、暖かく優しげなストーリーの中に、一抹の不安とぴりりとした緊張感を与えています。
また、徐々に明らかになる主人公の背景、その世界に起きていた悲しく辛い過去、そしてこれから起ころうとしている出来事は、主人公の旅に暗い影を差すかのようです。
けれどリン少年が心の拠り所として思い浮かべる彼の家族、そして旅の中で出会う暖かく優しいヒトビト、なによりも信頼できる大事な友人との出会いが彼とその旅路に明るい希望の灯を燈すのでした。
と、まぁ何やらごちゃごちゃと書いてしまいました、この作品に魅力はまずその幻想的な世界観です。
まず主人公が乗り込む星々を渡る星間列車というシチュエーションからして、「銀河鉄道の夜」を思わせるようなロマンと情緒がたっぷりですし、登場する不思議な外見を持つヒトビトは物語を読むにおいて自然とその姿が脳裏に浮かぶほどに鮮明なイメージを持って描かれています。
旅の途中で立ち寄る星々もその星ならではの地域色や風習を持っており、それが作品に独特な雰囲気を醸し出しています。
なにより主人公が一番最初に出会い友人となった謎めいたネコ族の少年エムトントも、段々と主人公と気持ちを通わせていく過程が丁寧に、そして情緒豊かに描かれているので、その部分も見逃せないポイントとなっております。
物語はけして明るく朗らかなだけではなく、どこか寂しく切ない一面を持っておりますが、常に一生懸命でひたむきな主人公のリン少年によって、こちらまで穏やかで暖かい気持ちで作品を読んでいくことができるのです。
現時点では、まだまだ秘密も謎もたっぷり残っております。
いったいリン少年が辿り着く終着地点はどんな景色なのか、彼の旅からこの先も目が離せません。
掲載 /オリジナル創作サイト
「白紙領域」
管理人 /橘高 有紀さん
<キャラクターの成長を主軸においた、シリアス路線のファンタジー小説をメインに書かれております。中編、短編と作品を多数掲載。見事なサイトデザインと美麗なイラストにも注目です。>
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