企画『お題バトル』参加作品
◆◇ U.F.O ◇◆

 
 半年ほど前、あたしは交通事故にあった。
 交通事故とは言っても、車に轢かれかけたことに驚いて転倒したというだけだからたいしたことじゃない。
 頭を強くぶつけたものの、脳出血は起こしてないし、CTスキャンで撮っても特に異常はなかったから単に一日の検査入院で家に帰された。
 だけど本当は、何の異常もなかったかというとそうじゃない。
 実はあたしは何と、頭を打ってから人の心の声が聞こえるようになってしまったのだ。
 人の心の声というのは、言ってしまえば本音そのもの。
 そこにはその人の人間性や本性が浮き彫りにされてくる。
 そして半年間人の心の声を聞いてあたしが気付いたことは、意外と人は裏表があるものだということ。
 例えば清純派で知られているクラスのアイドル亜里沙ちゃんは、聖母マリアのような微笑みを浮かべて挨拶しながら、必ず相手の尻をチェックしていることだとか、お堅いだけだと思っていた数学の教師が授業のたびに心の中で「数式萌え〜〜っ!」と絶叫していることだとか。誰しも意外な一面を持っているんだとあたしは驚かずにはいられない。
 覗き趣味はよくないと思いつつも、見ないようにはできないし、なによりそうした誰も知ることはない他人の本質に触れることは結構楽しかったりするのも事実だ。
 そんななか、あたしが今一番気になっているのが季節外れの転校生である星野夜空(ほしのよぞら)。衣替えもとっくに終わった頃にやってきた彼だ。
 見た目は爽やかな好青年なのだけれど、彼が初めて教室に入ってきて挨拶をした時、あたしは自分の耳を疑ってしまった。
 これまでは気にしないようにとずっと自分を抑えてきたけれど、それもそろそろ限界。あたしは思い切って直接本人に尋ねに行くことにした。
「あのさ、星野君……?」
「なんだい?」
 転校してきてから数週間のうちですでに真面目な優等生として知られるようになった星野君は、にっこりと爽やかな笑顔で聞き返す。だけどその時あたしの頭に聞こえてきたのは
(∞÷±×$%&*£§●♂∴∂≒≪⊥∠∀)
 明らかに地球外の言語にしか聞こえない謎の言葉。
 こ、これはいったい何語なの!?
 あたしは狼狽を隠しながら、遠回しに聞いてみる。
「あのさ、星野君は帰国子女だったりするのかな? 実は幼少時代を日本以外で過ごしてきたとか……」
「いいや。産まれも育ちも日本だよ」
(%&∀£§●♂∴∂)
 しかし頭の中での思考はどう聞いても謎の言語で構築されている。本当にこれはいったいなんだと、あたしは疑問を隠せない。
「でも、いったい突然どうして?」
「ううん、なんでもないの!」
 あたしは大急ぎでごまかして彼の元から離れる。まさか彼が宇宙人かもしれないと疑っているなんて口には出せないし。
 なにより、
(まさか好奇心から、あなたが何を考えているか知りたいだなんてもっと言えないよなぁ)
 そんなことを考えた時、ふいに星野君に呼び止められた。
「僕が何を考えているのか知りたかったら、僕ともっと親しくなる事だよ」
 そう言ってとびっきり甘い笑顔でにっこりと微笑んでくる。
 一瞬口を滑らせたのかと思ったけど、そんなはずがない。
 ああ、やはり人には意外な面があるのだろう。
 彼は宇宙人かもしれなくて、しかもその上……女ったらしであるらしい。
 あたしはなによりもそれに一番驚かされたのだった。

 


【終】


【お題一覧(使用したものは鍵括弧)】
『衣替え』 植物 『交通事故』 懐中時計 『季節はずれ』 引越し 『すべった』 『裏表』 お参り 歌 『転校生』 『夜空』 『意外な一面』

 

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